動脈硬化(アテローム性)の原因
動脈硬化(アテローム性)の原因は、 様々な研究を通じて、幾つかのことが分かってきているものの、 未だ情報は錯綜しています。最近では、アメリカ心臓病学会が「食事によるコレステロールの摂取と、 コレステロール値には全く相関関係がない」と発表し、 日本動脈硬化学会や厚生労働省も、 コレステロールと動脈硬化の関係について、食事摂取基準を撤廃(2016年予定)しています。
ここでは動脈硬化のうち、 最も有名なアテローム性動脈硬化の原因と予防について、 現在までに分かっていることを紹介しています。
アテローム性動脈硬化は原因ごとにリスク度が異なる
アテローム性動脈硬化の原因と考えられている因子は多いものの、 どの原因がどの程度、動脈硬化を進行させるのか、 あるいは本当に動脈硬化と関係があるのか、未だ情報は錯綜しています。この動脈硬化の原因と考えられている因子について、 現在「最も危険な因子」、「影響する可能性がある因子」、「影響が小さい、または、不明、不確実と考えられている因子」 の3つに分類されています。
アテローム性動脈硬化の原因
■最も危険な因子
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メタボリックシンドローム
メタボリックシンドロームとは、 よく知られる「ウエスト周囲」以外に、 本来、 以下の3つのうち2つ以上が当てはまる状態を指します。(アメリカでは5つのうち3つ以上当てはまる状態を示しますが、中身はほぼ同じです。)
このメタボリックシンドロームを構成する全ての要素が アテローム性動脈硬化の危険因子となるため、 メタボリックシンドローム基準に合致することは、 アテローム性動脈硬化において、最も危険な状態と考えられています。
メタボリックシンドロームとは
■必須基準
①高血圧
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喫煙
喫煙はアテローム性動脈硬化だけでなく、 多くの血管疾患に影響を与えます。
喫煙による動脈硬化の危険性
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血管のしなやかさを保ち、 血管拡張、血流を促進する一酸化窒素(NO)の生成を阻害するため、 動脈硬化以外にも、 多くの血管疾患に影響を与えます。
また、喫煙は末梢白血球の数を20~25%増やしますが、 この白血球の増加は、 動脈硬化の初期事象を測る指標にも用いられます(白血球は炎症時に増加するため)。
その他、 喫煙者は血清コレステロール値、中性脂肪値、 LDLコレステロール値が高くなる傾向があるだけでなく、 LDLコレステロールの酸化やフリーラジカル媒介酸化ストレスにより、 血管内の血栓を作ることを促進します。
ビタミンB6、B12の欠乏
ビタミンのうち、特にビタミンB6とB12の欠乏はアテローム性動脈硬化を促進します。鹿児島大学の研究によると、 ビタミンB6の低レベルによって引き起こされる酸化的ストレスは、 ラットにおいてホモシステイン誘発性アテローム性動脈硬化症の発症を促進する、としています。
また、米国南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校によって行われた 研究(論文名称:高容量ビタミンB補充とアテローム性動脈硬化の進行)では、 「ビタミンBが頸動脈の厚さの進行を減少させることはなかったものの、 早期無症状時のアテローム性動脈硬化の進行に有意な治療効果がある」と述べています。
ビタミンBを多く含む食品については、 ビタミンBをご参照下さい。
ダイエット・適正体重の維持
適正体重はLDLコレステロール(悪玉コレステロール)値を下げる非常に有益な手段です。1966年~2001年に発表されたBMIが28以上(肥満基準は25以上)の人を対象とした、 体重とLDLコレステロール(悪玉コレステロール)のいくつかの研究をまとめた調査によると、 「10kgの減量によって8.9mg/dL(0.23mmol/L)コレステロール低下が見込める」とし、 「適正体重の維持は特にLDLコレステロールに長期的に有益な効果を有する」と発表しています。
また、1999年ペンシルバニア大学で行われた25名の肥満女性を対象とした研究でも、 「体重が平均11.7%(±2.8) 減少したところ、 LDLコレステロールは平均23%(±18.1)減少した」と発表しています。
ただし、単純に痩せるだけでは効果は薄く、適性体重になることが重要です。
詳しくは、適正体重と動脈硬化をご参照下さい。
閉経、エストロゲン欠乏
エストロゲンの欠乏は、アテローム性動脈硬化の進行を増加させます。 (因果関係はないとする説もあるため、現在は不確実因子に分類されています。)閉経によるエストロゲンの低下がアテローム性動脈硬化を進行されると考えられている理由は、 エストロゲンが血管拡張作用、動脈壁の内膜にプラスの効果を有するためです。
1989年に発表された「閉経後女性におけるアテローム性動脈硬化症のリスク増加」という研究によると、 45~55歳の294名の閉経前女性、319名の閉経後女性を対象にしたところ、 閉経前女性ではアテローム性動脈硬化が3%(8名)であったのに対し、 閉経後女性では12%(38名)が数えられ、同じ年齢でも4倍のリスクがあった、と述べています。
また、両側卵巣摘出術を行った女性では、 更に大きなリスク(5.5倍)があった、としています。
同様に、2002年に出版されたオックスフォード大学出版の専門書「心血管研究」においても、 「エストロゲンの欠乏は、 人間および非ヒト霊長類研究の両面において、 アテローム性動脈硬化の進行を増加させるという確固たる証拠がある」と述べています。
ただし、エストロゲンの欠乏をホルモン補充療法で補うことには、 心血管系リスクのほか、乳がん、卵巣がん、子宮がんなどのリスクを増加する可能性があることが、 「ホルモン補充療法の利用に関わる国際ガイドライン」に定められています。
また、 アメリカ心臓協会は、 冠動脈疾患性の心臓病や脳卒中のリスクを低減するために、 閉経後ホルモン療法を使用しないよう勧告しています。
ホルモン補充療法のリスクについては、 ホルモン補充療法のリスクをご参照下さい。
高脂肪食(飽和脂肪酸・トランス脂肪酸)
高脂肪食のうち、特に不飽和脂肪酸、 中でもバター、ラード、パーム油などのトランス脂肪酸を多く含む食品は、 冠状動脈性心臓病や糖尿病に対するリスクを大幅に増加させます。
トランス脂肪酸については、 トランス脂肪酸をご参照下さい。
肉食
肉食と心血管系疾患に関わる研究(※1)により、 これまで健康に良いとされ、多くの医師が摂取を推奨していた赤肉に含まれるカルニチンが、 アテローム性動脈硬化を進行させる可能性があるとわかりました。この研究では、 腸内細菌の分布状態(人によって異なる)によって、 赤肉がアテローム性動脈硬化を進行させる可能性が指摘されており、 結果、全米で「カルニチン論争」が起こりました。
この論争には様々な機関(食肉業界、医療業界、各研究者、スポーツ業界など)が意見を発表しており、 未だ明確な答えは出ていないものの、 「食事によるコレステロールの摂取と同様の歴史を繰り返してはならない」とし、 更なる研究が必要である、とされています。
参考:
※1:ネイチャーメディスン:「赤肉に含まれる栄養素であるL-カルニチンは腸内細菌叢の代謝によりアテローム性動脈硬化を促進する」
※1:ネイチャーメディスン:「赤肉に含まれる栄養素であるL-カルニチンは腸内細菌叢の代謝によりアテローム性動脈硬化を促進する」
糖分・炭水化物
糖尿病では、食後の急激な高血糖(グルコーススパイク)は、 心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を起こす危険因子とみなされます。また食前・食後・空腹時など、 一日の血糖値の変動幅(平均血糖変動幅)が大きいほど、酸化ストレスが増強し、動脈硬化のリスクとなることが分かってきました。
しかし、動脈硬化の予防を目的とする場合、 「低炭水化物ダイエット(ローカーボダイエット)」には、 複数の医師が警告を鳴らしています。
ハーバード大学ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのマウスを使った研究では、 「低炭水化物/高タンパク食では、アテローム性動脈硬化の有意な増加があった」と述べており、 血管の健康は従来考えられていた脂肪だけでなく、 低炭水化物と高たんぱく質によって影響を受ける(リスクになる)可能性があると、述べています。
また、2011年、アメリカ心臓病学会誌に掲載された内容では、 535,000人をカバーする50の研究を調査したところ、 地中海式ダイエット(たんぱく質摂取量が少ないダイエット方法)が、 低い血圧、低い血糖、低い中性脂肪(トリグリセリド)と関連していた、と述べています。
地中海式の食事療法については、 地中海式食事療法をご参照下さい。
アルコール
大量のアルコール消費は、動脈硬化だけでなく、 アルコール依存症、脳卒中、アルコール性心筋症、 癌、肝硬変、膵炎、自殺、殺人など様々な病気・問題を引き起こします。ただし、米国心臓協会の栄養委員会、トーマス・A・ピアソン医学博士によると、 毎日1~2杯の飲酒は、冠状動脈性心臓病(CHD)、アテローム性動脈硬化のリスクを30~50%減少させる、 と発表しており、 アルコールは飲む量と頻度によって動脈硬化の予防や改善に繋がると考えられています。
詳しくは、 アルコール適量とはをご参照下さい。